化合物の名前を覚えるのは嫌いですか？ 私は好きです。
豚寺院（butadiyne）
世の中には寺院はたくさんあるが、その中でも最も低級な寺院。もっと高級な寺院は安定だが、この寺院は室温で壊れていく。場合によっては爆発する。こんな寺院に誰が行くかと思うのだけれど、アルコールやアミンは求核攻撃をかけるらしい。攻撃を受けて壊れるのかと思うと、逆に安定になってしまうというのだから、世の中って不思議なものだ。なお、高級な寺院に馬寺院とか象寺院とかはないんだけれど、デカ寺院というのはある。どれぐらいでかいかというと、豚寺院よりも2.68倍重い。豚寺院の構造式は次。
知らん（silane）
「先生、下の構造式の化合物の名前ってなんていうんですか？」
「知らん」
「そんなこといわずに教えてくださいよ〜」
「だから、知らん」
「いじわる〜（泣）」
「だから知らんといっているだろうが〜（怒）」
毎年、日本中でこのような会話が繰り広げられていることであろう（たぶん）。
テスト捨てロン（testosterone）
世の中にこれほど悲しい化合物はないといって良いだろう。あれはもう何年前になるだろうか。明日は期末試験という夜、私は卓を囲んでいた。トップとの差は6000点ほどの南四局。もう終電まであまり時間はない。この半荘が終われば家に帰って勉強ができる。私の手元には満貫手が入っている。これを上がったらトップだ。しかし、トップを取ってそのまま逃げるというわけには行かない。どうせあたり牌はドラだから出てこないだろう。上家は立直をかけている。これに振り込めば３位転落だ。笑って帰れる（財布は痛いけれど）。繰り返す暴牌は、しかし、上家に当たらない。焦りが見えてきたころ、上家が捨てた牌は、ドラだった。気がついたとき、私はロンと言っていた。テストは...
何よりも悲しいことは、テスト捨てロンが「男性ホルモン」だということなのである。構造式は次。
網ロース（amylose）
肉はタンパク質からできているにも関わらず、味は淡泊ではない。同じように（何が？）、このいかにも濃厚な味のしそうな名前を持つこの化合物は、実はでんぷんの主成分である。だから、「網ロース焼きを食べさせてあげよう」などという化学者の言葉にだまされてはいけない。もしかしたら、単なる焼きおにぎりを食べさせられるかもしれない。構造式は次。
宴会王（sulfurchloride）
近寄ってはいけない。激しく犯されるぞ。左の一宴会王と右の二宴会王の二人組で行動する。危険なやつら。
腐乱（furan）
こいつはくさい。いや、別に腐乱臭があるわけではないのだが、フラン臭がある。得意技は香水で、女の子のあこがれ、ってそれはフランス。腐乱が12ヶ集まってできた犬は、フランダースの犬と呼ばれる。構造式は次。
兄剃る（anisole）、姉取る（anethole）
お兄さんが剃っていて、お姉さんが取っているのは、たぶんアリル基だろう。お兄さんとお姉さんがどちらが年上かは知らないけれど、少なくとも重いのはお姉さん。次の構造式で、左が兄剃るで、右が姉取る。兄弟姉妹だけあってよく似ている。弟という化合物はないと思うのだが、妹とよく似たやつで「妹ある」重合という反応が知られている。
プリン（purine）
これはプリンではないし、プリンにも入っていない、と思う。でも、この誘導体は本当にプリンに入っている。プリンだけではなくて、食べ物には必ず入っていると考えていい。ＤＮＡを構成している核酸塩基のうち二つはプリンの誘導体だからだ。ご飯を食べながら「おお、プリンの味がする」と言ってみよう。構造式は次。
ピリ人（pyrdine）とピラ人（pyradine）と.....
化学の世界には国がたくさんあると見えて、いろいろな国の人がいる。次の構造式で、左がピリの国の人でピリ人。右はピラの国の人でピラ人。よく似ているし、ピリとピラは隣同士の国かもしれない。その他にも、フェナ人とかピロリ人とかアクリ人とかいろいろな人がいる。みんな６員環で窒素を持っているのが特徴。ちなみに、水素化されると「ぺ」が付いてピリ人はピペリ人に変わるし、ピラ人はピペラ人に変わる。大人になるようなものかな。
あみん（amine）
歌がうまい。次の構造式を見てもそうは見えないかもしれないが、女の子二人である。いつまでも待っている。何を待っているのかはよく知らない。きっと塩さんか硫さんでも待っているのだろう。
塩さん（hydrochloricacid）、硫さん（sulfuricacid）、硝さん（nitricacid）
化学の国の年寄。化学ができる前からいた。年寄だからもう引退しているかといえばそんなことはなくて、まだまだ現役。仲間がたくさんいて紹介しきれない。あみんと仲良し。彼らは強いんだけれどまとめて降参と呼ばれる。反対言葉は勇気さん。
食えんさん（citricacid）
勇気さんの仲間。やっぱり年寄。昔から食えないやつだと言われているにも関わらず、食える。でも、入りすぎると酸っぱすぎて食えなくなる。みかんが酸っぱいのは食えんさんのせいだし、漬物の酸味も食えんさんのせい。そういえば、レモンシトロンという飲み物があるけれども、食えんさんの名前はレモンに由来している。構造式は次。
栄子さん（eicosane→icosane）
栄子さんは昔の名前。今は井子さんという。20才。結婚したのでは名前までは変わらないから、きっと縁起担ぎなのだろう。栄子さんも良い名前だと思うがなあ。構造式は次。親戚には鳥子さん（23才）など。戸来（へき）さんという年若い（6才）兄弟もいる。塩さんや硫さんとは親戚ではない。名前だけでは判らないものだ。
網戸（amide）
あみんに似ているが、全然違う。歌も歌わないし、塩さんや硫さんと仲が良いわけでもない。でも、濃い硫さんに迫られるとプロトン化される。タンパク質には必ず含まれるので、肉や魚には必ず網戸が入っている。なお、網戸には一級から三級まである。一級を取るのには国家試験はいらない。普通は再結晶で取れる。二級網戸の場合、構造式は次。
